名無しさんさん
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志津子は警備員に促され、ブティックの裏手に続く狭い廊下を歩いた。足音がコンクリートの床に反響し、彼女の心臓の鼓動と重なる。警備員の背中を見ながら、彼女の頭の中では後悔と恐怖が渦巻いていた。「なぜあのアクセサリーに手を出してしまったのか」「夫にどうやって説明すればいいのか」。結婚記念日の輝きは、まるで遠い記憶のように感じられた。 裏手の小さな事務所にたどり着くと、警備員はドアを閉め、彼女に椅子を勧めた。部屋は殺風景で、机の上にはモニターと書類が雑然と置かれている。警備員は椅子に腰かけ、腕を組んで志津子を見た。 「奥さん、名前は?」 彼の声は落ち着いていたが、どこか支配的な響きがあった。 「志津子…です。」 彼女は目を伏せ、声を絞り出した。 「志津子さん、ね。いい名前だ。」 彼はニヤリと笑い、続ける。「状況は分かってるよね? 店としては警察に連絡するのが筋だけど、俺は優しいからさ。君が少し…その、親切にしてくれるなら、この話は水に流してやるよ。」 志津子の喉が締め付けられるようだった。夫との10年目の記念日、二人で計画したロマンチックなディナー、ホテルの窓から見える夜景――それら全てがこの瞬間に崩れ落ちそうだった。彼女は唇を噛み、震える声で言った。 「本当に…これで終わりにしてくれるんですか? 夫には…絶対にバレない?」 警備員は肩をすくめ、まるでゲームを楽しむような口調で答えた。「俺は口が堅いよ。約束する。さあ、時間がないから、始めようか。」 志津子の視界がぼやけた。涙がこぼれそうになるのを必死で抑え、彼女は立ち上がった。
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